導入事例

ノンコア業務を切り離し、現場技術者の時間を創出せよ!
現場共通業務をメニュー化し、工務センターが遠隔支援

前田建設工業株式会社-関西工務センター 様

前田建設・関西工務センター 様

この九州支店でのeYACHOを始めとしたICT推進・遠隔分業支援の背景には、”現場の相棒” ともいうべき関西工務センターの存在がある。今回は、遠隔環境における業務の分業支援を可能にした、関西工務センターの具体的な役割と取り組みについて、前田建設株式会社 関西支店 建築部 建築施工第2グループ 工務支援・環境チーム 主査、神宿智帆氏に話を伺った。

(建築部 建築施工第2グループ 工務支援・環境チーム 主査、神宿 智帆氏)

(建築部 建築施工第2グループ 工務支援・環境チーム 主査、神宿 智帆氏)

目次

関西工務センターが支える “遠隔分業支援”の仕組み

関西工務センターでは、作業所業務を、専門知識を有するコア業務と、そうではないノンコア業務に切り分け、主にノンコア業務の標準化から支援を推進している。ICTの導入支援、帳票のひな型の整備、工事写真用電子黒板(以下「電子黒板」)の作成、撮影された工事写真の台帳作成など、現場でなくても担える業務を集約し、”遠隔分業支援” を実現している。そしてこの遠隔での支援を円滑に行うためのキーとなっているのは、eYACHOを軸としたデジタル基盤に他ならない。

関西工務センター(以下「工務センター」)は、関西支店に拠点を置き、中部・関西・中国・九州・沖縄支店の”現場でなくてもできる業務” を集約して支援している。その作業所数は約60にのぼり、作業所から寄せられる依頼は、ベトナムに拠点を置く事業所や、就労継続支援A型事業所を含む4社の外部委託会社(ビジネス・プロセス・アウトソーシング、以下「BPO」)を活用している。

BPOによる業務を可能にするため、これまで支店や作業所ごとにバラバラだった帳票を統一するとともに各業務の支援方法・フローを見直し、”標準化された支援メニュー” を整備した。作業所開設時に作業所との会議を実施し、作業所の支援すべき内容・時期をまとめ、BPOとも共有している。

工務センター支援メニュー

(写真)整備された工務センター支援メニュー。ヒアリングした内容に応じて、支援内容・時期等が弾き出されるシステムが確立している。

作業所へのeYACHO導入支援(ICT等の導入・管理)
ー作業所が現場業務に集中するための ”準備役”ー

作業所で導入・活用されるICTツールは、安全管理、情報共有、サイネージなど多岐にわたる。ICTは非常に便利だが、ツールの導入や使用者権限の付与など、従来はなかった新たな業務が増えている。

特にeYACHOの活用が進む九州支店では、職長へのiPad(eYACHO)の貸与数が社員数を上回るほどで、ツールの権限設定や管理は膨大な業務量となっている。そこで、現場が本来の作業に集中できるよう、工務センターで以下のような周辺業務を包括的に担う仕組みを整えている。

  • ・ 各ICTツールの権限付与・管理
  • ・ 貸与iPadの手配・アプリの初期設定
  • ・ デフォルトのフォルダ・コンテンツの作成
  • ・ 運用時の問い合わせ対応

また近年はeYACHOの普及により、協力会社が自社でeYACHOを所有するケースも増えており、「限定ユーザー」から「社外ユーザー」へ権限区分を切り替える作業も工務センターで対応する。 eYACHOのフォルダ構成も統一されており、職員が異動しても迷うことがないようになっている。

工務センターにて作成する、全作業所共通のフォルダ構成

(写真)工務センターにて作成する、全作業所共通のフォルダ構成。

工務センターが権限設定のプロセス全体を代行する体制を整えたことで、作業所側は「依頼するだけ」で、余計な手を煩わせずに、権限付与・変更が完了し、現場は「ICTを使って業務を進めること」に専念することができるようになっている。

eYACHOによる各帳票のダイレクトチェック

工務センターでは、以下のような帳票の作成や支援を担っている。

  • ・ 新規入場者用教育動画の作成
  • ・ 各工種別検査シート作成
  • ・ 工事写真用電子黒板作成
  • ・ 撮影写真の台帳作成

「遠隔で帳票の作成が進むので、作業所による帳票チェックは重要だ。以前はクラウドサーバーへデータをアップし、メールでやりとりする方法をとっていたが、担当者がメールを見逃したり、対応が遅れたりすることで支援がうまくいかないことがあった。さらに、チェックバックの方法も、PDFを印刷→赤入れ→スキャン→クラウドへ保存→保存連絡という煩雑な手順を踏む必要があり、現場にとって大きな負担となっていた」

そこで、工務センターが帳票をeYACHOにアップロードし、作業所職員がタブレット上で紙と同じ感覚で書き込み、チェックを行えるようにした。その場で書き込んだ内容が即時反映されるため、印刷もスキャンも不要、すべて電子だけで完結する。「eYACHOの “電子で直接やりとりできる”特性により、チェックバックにかかる時間と手間は大幅に削減され、やりとりのスピードも格段に向上した」

<工事写真業務の遠隔支援>

若手職員が現場で多くの時間を費やす業務のひとつである工事写真業務における支援は、以下のように行われている。

  • 1. 【工事写真撮影前】電子黒板の作成支援
    撮影に必要な電子黒板は、事前に工務センターが作成し、作業所はeYACHO上で内容を確認する。

  • 2. 【工事写真撮影後】撮影写真の日ごと帳票作成
    作業所が撮影した工事写真を、工務センターが日ごとに帳票を作成し、作業所がその帳票で「この写真はいる・いらない」などをチェックすることで工務センターが最終の工種別工事写真の台帳にまとめる。撮影された写真のチェックは重要であることから、撮影者と撮影者以外の担当者にも確認を求めている。その確認の依頼はeYACHOの承認依頼機能により実現している。

  • 3. 【工事写真チェック後】工事写真工種別写真台帳作成

    工務センター支援メニュー 品質管理準備支援 品質管理準備支援

    (写真左)事前に準備された電子黒板をeYACHO上で確認する
    (写真中)eYACHOの承認機能を用いた工事写真台帳の運用ルール
    (写真右)eYACHO上でのチェック状況


帳票のアップロードやチェック完了の連絡時にはeYACHOのURLを直接送る運用にしている。帳票を探す必要がなくクリックするだけで、間違いが発生しない最短で確実なアクセス方法だ。なお、連絡はMicrosoft Teamsの作業所ごとのTeams内で一元管理。工務センターと作業所職員全員がやりとりとその経緯を確認できるようにしている。

工務センター支援メニュー
品質管理準備支援 品質管理準備支援

(写真左)新規入場者用教育動画の作成
(写真右上下)工種別検査シートの作成支援連絡はTeamsでURLを送信する。

<作業計画書>

工務センターが遠隔で作成した帳票を利用して、作業所が作成し、工務センターがその帳票を取得する事例もある。それが「作業所の日々の作業計画図」である。現場では、毎日の打ち合わせで、明日の現場の状況などについて配置図を用いて作成し、それを朝礼で全作業員に説明する。その計画図の作成ややりとりについてもeYACHOが活用されている。

  • 1. 【工務センター】作業所の配置図フォーマットの作成
  • 2. 【作業所】日々の作業計画図の作成
  • 3. 【工務センター】日々の作業計画図のデジタルサイネージへの登録

作業所の作業計画図は、日々の作成自体は作業所が担当する一方、フォーマットの整備や、作成された作業計画図をデジタルサイネージへ登録する作業は工務センターが担っている。業務が遠隔になるため、メールやTeamsでデータのやり取りを実施するとタイムラグが生じ、どれが最終のデータかも判断しづらくなるという問題点がある。

そこで、作業計画図は、「毎日15:00までに作成する」ことをルール化した。これにより、作業所と工務センターが逐一連絡を取り合わなくても、作業所が作成した計画図が自動的にデジタルサイネージへ登録される。

さらに、フォーマットや帳票についても、「どこにあるのかわからない」「違うバージョンを使ってしまう」といったミスを防ぐために、eYACHO のノート URL 発行機能(リンク化) を活用することとした。リンクを開くだけで “一瞬で到達” できる運用 としたことで、探す手間やバージョン違いによる混乱が解消され、設定間違いを防ぐことにつながっている。

工務センター支援メニュー
品質管理準備支援 品質管理準備支援

(写真左)作業所と工務センター共有の配置図ノートへのURLを配布
(写真右上)URL先の作業計画図作成を格納したフォルダ
(写真右下)デジタルサイネージに投影

時間の価値を最大化する真の働き方改革で、建設業界を支える

遠隔支援の取り組みを牽引するのは、前田建設株式会社 関西支店 建築部の浦島健氏と神宿 智帆氏だ。「作業所の業務は建物の施工管理だけではなく、雑用なども含めて多岐にわたっています。我々が目指すところは、現場の技術者が本来技術者としてやるべきコア業務に集中できる時間の創出です。時間を削るのではなく、時間の価値・建築職員の価値を最大化したい」と神宿氏は語る。

工務センターの支援は、これまで説明してきたeYACHOを活用した取り組みだけではない。支援メニューは14の大項目、100を超える詳細業務に及び、そのひとつひとつ、作業所業務を紐解き、遠隔で支援が可能となる業務フローを確立している。

これだけの支援メニューの構築には、様々なシステムを組み合わせて業務フローを実現することが必要不可欠である。例えば工事写真整理支援については、MetaMoJiアシスタントを活用して構築している。メーカーの機能強化やバージョンアップ等のタイミングは、業務フローに影響しないか、マニュアル類はどう変更が必要か、などを検討するため、メーカーとの連携も重要だ。

工事写真台帳の運用についてMetaMoJi技術部門と打ち合わせを行った当時の様子。左から、建築部 建築施工第2グループ 工務支援・環境チーム チーム長 浦島 氏、神宿氏、MetaMoJi担当。リモートで機能担当ともつないで、細かな仕様まで打ち合わせを重ねてフローに落とし込んだ

(写真)工事写真台帳の運用についてMetaMoJi技術部門と打ち合わせを行った当時の様子。
左から、建築部 建築施工第2グループ 工務支援・環境チーム チーム長 浦島 氏、神宿氏、MetaMoJi担当。リモートで機能担当ともつないで、細かな仕様まで打ち合わせを重ねてフローに落とし込んだ

さらに重要なのは、社内での目的共有だ。「この規模で西日本全体に展開できているのは、上長である浦島チーム長と常に“目的の軸”を共有できているからです。この支援が本当に現場に役立つのか、フローはこれで良いか・・悩んだ時に、軸をぶらさず、『現場第一』の視点で議論を続けているからこそ、進み続けられているのです」と神宿氏。

技術者の技術者としての時間を確保したいサポート部門が強化されると「現場の技術力が下がるのでは」と懸念されることもある。しかし神宿氏は、こうした懸念に明確に答える。「5分、また5分と現場の職員に積み重なる小さな業務は、確実に負荷となり、現場技術者の時間と意識を奪います。私たちが作りたいのは、“空き時間”ではなく、“思考の時間” です。現場技術者が本来注力すべきなのは、品質と安全を担保した計画を練り、現場を確認すること。そのための時間を確保してあげたい」

「これまでは ”現場のことは現場で” と考えられていることが多かった。しかし、これからの時代、日本では人口減少を含めて技術者は確実に少なくなっていく。少ない技術者でこれまで以上の成果をあげるにはどうしたらいいか。今後も我々はそこにチャレンジしていく必要がある」と浦島氏が続ける。

「こうした取り組みによって削減された時間は現場の計画・確認・判断といった本質的な業務に再投資されています。私たちの目指す “時間の価値・建築者の価値の最大化” が実現されていることに他なりません」と語る神宿氏はこう続けた。「私は、“建設” が大好きなんです。私自身、今は現場に出られなくても、こうして新しいかたちで “建設” に関わり続けられていることが本当に嬉しい」

最後に。工務センターにて作成される検査シートや電子黒板などは、国土交通省の仕様書に基づいて整備されている点にも注目したい。全国共通の標準仕様をベースとし、そこに前田建設独自の項目・監理発注者要求を加えて作成されている。現場技術者の経験に依存せず、品質確保の“抜け漏れ”を防げる仕組みとなっている。

こうした標準化と支援メニュー化の仕組みは、これからも確実に進化し続けると共に、eYACHOもさらなるアップデートを重ね、現場を支える力をいっそう高めていくだろう。

(2026年1月取材)

事例一覧に戻る

▲トップへ