「安全AI」で作業手順を
検証し現場の安全への
意識を高める
株式会社大林組 様
大林組JVが施工を手がけている早明浦(さめうら)ダム再生事業の現場(高知県本山町、土佐町)では、2023年6月からMetaMoJiが同社と共同開発した「安全AIソリューション」を活用。過去の事故事例が必要に応じて活用しやすくなり、作業手順書の改善やKY活動の質の向上などに役立てている。
「安全AIソリューション」(以下、安全AI)とは、MetaMoJiと独立行政法人
労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所との共同研究に基づいて、MetaMoJiと大林組が共同開発したシステム。過去の災害事例データからAIモデルを構築したうえでリスクアセスメントをAIが行い、高い危険性が予測される事項について指摘する仕組みだ。
機能としては、MetaMoJiのデジタル野帳「eYACHO」や「GEMBA
Note」上の安全衛生日報や作業計画書等に、作業者や現場の状況に応じて関連度の高い過去の事故事例などの安全管理情報を抽出する「Dynamic
Checklist®(ダイナミックチェックリスト)」を作成する。
リスクの可視化と安全管理の高度化を実現し、個人の経験や勘に依存しがちなこれまでの安全管理業務の改善につなげることができる。2023年6月12日から正式に提供を開始した。
「eYACHO」を通じて
過去の事故事例を検索
さっそく6月14日から「安全AI」を活用したのが、大林組JVの早明浦ダム再生事業の現場事務所だ。
独立行政法人
水資源機構が管理する早明浦ダムは、吉野川上流の高知県嶺北地域に位置し、四国最大の貯水容量を持つ。吉野川の洪水調節のため、雨水をダムに貯留して、安全な水量に制御して下流域の被害を防ぐという役割を果たしてきた。
しかし、近年では気候変動の影響を受け、局地的な豪雨による水害も増えている。そうした変化に対応するため、貯水池の容量振替や予備放流方式の導入により
洪水調節容量を増大させるとともに、洪水時の放流能力増強のため放流設備の増設等を行うことにより、ダムの治水機能の向上を図ることになった。それが早明浦ダム再生事業だ。この現場では、タブレットに搭載した「eYACHO」を通じて、職種、作業種、起因物(使用機械など)の要素を選択すると「安全AI」が、大林組の過去の事故事例から内容的に類似したものを自動で選択し、表示するという仕組みに落とし込んで利用している。
KY活動をよりスムーズに展開することが可能に
現在、同事務所での利用法としては2つの場面がある。1つは、朝礼における危険予知活動(KY活動)だ。
この際に、職員は「安全AI」によってピックアップした過去の事故事例を作業員に示しながら、「KY活動」を行う。若手職員の1人、稲田氏(入社5年目)は次のように話す。「私はまだ5年目なので作業上のリスクについては経験がなく、想像でしか話せません。しかし、『安全AI』で具体的な事故事例を示すことができれば、注意点を伝えるときにも説得力が増すように思います」。
この現場で「安全AI」の推進に注力しているのが、四国支店早明浦ダム再生JV工事事務所所長の長坂氏だ。「今は多くの現場で、20代の若手と50~60代のベテランが中心で、30~40代の中堅が少ない。20代は経験が浅いためにリスクに気づきにくい。逆にベテランは自分の経験に頼りがちで基本をおろそかにしやすい。
この『安全AI』による事故事例を示すことで、若手の学習、ベテランへの注意喚起ができるのでは、と期待しています」。
導入前は、同社の安全本部のウェブサイトにアクセスして、事故事例を検索する機能で作業内容に合わせた事故事例を探していたという。ただし、検索のキーワードは調べる人の語彙力に左右される。また安全対策上でもっとも重要なリスクアセスメントも実施されない。従来の検索システムによるKY活動には、安全管理面で不十分な点があった。
その点、「安全AI」では、リスクを迅速に定量的に判断したのちに抽出された事故事例を閲覧することで、抜けや漏れがなく、より的確な安全管理策を特定することが可能になる。
「『安全AI』はタブレットに搭載したeYACHOを通して事故事例を検索できるので、現場でそのまま作業員の皆さんに見せられます。しかも適切な事例を選んでくれるので、効率よくKY活動を進められるようになりました」と若手の大西氏(入社12年目)。新しい技術を導入する際に、新しいツールを使うようだと、一から操作や機能を覚えなければならない。しかし、従来使用しているタブレットで操作でき、eYACHOの延長上の機能として利用できるということで、「安全AI」は比較的スムーズに職員の間に浸透していったようだ。
作業手順書の作成時にリスクを確認する
この現場における「安全AI」の活用法はもう1つある。作業手順書について職員が協力会社の職長と検討を行う際、同じような作業について事故事例を「安全AI」で検索し、注意事項として添付するのだ。現場で毎回注意喚起するだけでなく、作業手順を考える段階から安全を考慮することで事故の予防に努めている。
「職長さんも安全の基本は踏まえて作業手順を作成していますが、個人の経験や知識にはどうしても限界があります。『安全AI』を活用してから、事故事例を見て“このままではいけない”と作業手順を修正したことがありました」と同じく若手の紀平氏(入社7年目)。
ベテランの職長が作成した作業手順を若手職員が修正する。活用以前は見られなかったシーンだが、現在は年齢や経験の壁を越えて、作業の効率と安全の質を高める取り組みが進行中だ。
「私たち経験のある者もすべての作業のリスクを知っているわけではありません。若手にとっても経験をカバーするいい機会になっているようです」と長坂所長。それぞれの足りないところを「安全AI」が埋めることで、安全衛生面について、知識を伝承し人材を育成する効果があるようだ。
「2024年問題」に向けて、DX化は避けては通れない。「安全AI」はその課題解決にポテンシャルを発揮する技術といえそうだ。