導入事例

目的はICTツールの導入ではなく現場の課題解決と生産性向上


株式会社大林組 様

大林組JVが施工を手掛ける千住関屋ポンプ所建設現場(東京都足立区)では、わずか半年でデジタル野帳「eYACHO for Business」の活用が広がり、現場のさまざまな課題を解決、働き方を大きく変えた。デジタル野帳をどう活用しているのか。なぜ急速に普及が進んだのか。千住関屋JV工事事務所で話を伺った。

東京都下水道局は、2010年から東京・足立区の千住地域に雨水ポンプ所「千住関屋ポンプ所」を建設中だ。巨大な2函体を、離隔約2mの近接で50m以上同時沈設する高度な施工事例で、16年には土木学会技術賞を受賞した。

この一大プロジェクトに携わる千住関屋JV工事事務所では、職員全員がデジタル野帳「eYACHO for Business(以下・eYACHO)」を活用して現場力を強化。生産性向上を実現してきた。

「大林組では12年からタブレット端末の社員配布をはじめたが、現場では目前の仕事で忙殺され活用は滞っていた。しかし、19年11月から状況は急速に変化した。本社i-Conセンターのスタッフが工事事務所に約1カ月常駐し、非効率な作業を現場の声から掘り起こし、一つひとつ応えるかたちでeYACHO上にテンプレートを作成し解決を図っていったからだ」(千住関屋JV工事事務所 工事長・小山一朗氏)。

わずか半年でeYACHOが普及ポイントは課題の抽出

i-Conセンターとは19年に発足した新部署で、生産性向上に資するICTツールの導入支援を、現場に直接出向いて行っている。千住関屋JV工事事務所では、わずか半年でeYACHOが普及し、紙の野帳はほとんど使用しなくなった。

 

「現場に即した方法で活用法が提案され、eYACHOで実際の業務が劇的に改善する実感があり、誰もが進んで使うようになった。『これもできないか』と投げかけると、i-Conセンターがすぐに対応し、活用範囲が広がり現在に至っている」と小山氏。実際にどのように活用してきたのか。事例を紹介しよう。

 

eYACHOによる一人ATKYパトロール

〈現場パトロールの報告書作成〉

千住関屋の現場では、一人ATKY(安全・点検・確認・危険予知)パトロールという、独自の取り組みがある。 同工事事務所主任の原良輔氏はこう説明する。「以前は現場を巡りデジカメで撮影、事務所に戻り画像を整理して情報入力し、プリントして定例の打合せで是正指示書を配布していた。指摘事項が増えると書類も増え、期限までに作成することが目的化し、技術者本来の業務が滞りがちになっていた」。


この手間をeYACHOで軽減できないか。まず、i-Conセンターが用意した一人ATKYパトロールの報告書用フォーマットを共有し、タブレットで撮影した画像を随時アップロードして、全員がどこからでもリアルタイムに整理・編集ができる仕組みを構築。担当者が1人で報告書をまとめる作業がなくなった。是正完了も担当者が現場で確認し、チェック項目から『処置』を選択するだけで済む。

eYACHOによる施工進捗状況の管理

〈工事進捗状況を一元管理〉

「進捗状況は発注者にとっても関心事で、問合せがあると現場に出向いて、掲示板を見て確認し計算して報告していた」(小山氏)。

ここでは図面上の作業ポイントにチェックボックスを配して、作業が完了したポイントを担当者がチェックして色変更することで、進捗状況を視覚化する管理計画書を作成。設計数量と注入完了数量を入力すると、進捗率を自動算出する機能も搭載した。PDF化して発注者への定期報告にも活用している。

〈打合せ簿の作成〉

eYACHO導入以前は、安全当番は定例(13時)の打合せに向けて、10時頃から各職長に電話や口頭で作業内容などを確認、手入力でExcelファイルにまとめていた。そのため午前中や昼休みが作業に費やされるケースも多かった。

現在は全員がタブレットから各自入力できるので10分程度で打合せ簿作成が完了。伝言ミスがなくなり情報が正確になった。個々のタブレット上で承認すると電子印が捺され、作業内容を確認した記録も残る。現場で見ている職員が入力できるので、作業区分別有資格者一覧の抜けもなくなった。

大林組i-Conセンターの目的はツール普及ではなく問題解決

「eYACHO導入は革新的だった。パトロール報告書や打合せ簿作成で忙殺されていた午前中がまるまる空いた。その時間で現場の測量や資材の注文作業などができる」と原氏はいう。


わずか半年でeYACHOがここまで普及した理由は何か。大林組土木本部・本部長室i-Conセンター現場支援第二課課長の速水卓哉氏はこう説明する。「帳票作成、打合せメモなど、これまで紙やホワイトボードに手書きしていた作業が、そのままタブレットやスマホの画面でできる。基本的なインタフェースが同じなので違和感がない」。


大林組が社内でタブレット端末のノートアプリを調査したところ「MetaMoJi Note」利用率が高いことがわかり、同社とMetaMoJiで紙に代わる野帳としてeYACHOを共同開発した経緯もあった。


i-Conセンターの役割について、同センター現場支援第一課課長の高橋寛氏は次のように語る。「作業のテンプレートはこちらでつくるので、困っていること、やりたいことは何でも言ってほしいというスタンス。仕事の進め方や発注者の意向は現場ごとに異なり、すべて同じフォーマットで展開するのは難しい。i-Conセンターのスタッフが現場事務所で机を並べ、現場のニーズや文化に合わせたやり方を探り、それを提示することで活用は進む。i-Conセンターの目的はツール導入ではなく生産性向上に資するものを現場のニーズに合わせて展開すること」。


改善・解決した実感があると普及は早くなると速水氏はいう。「ICT導入が目的になってはいけない。生産性向上という本来の目的を見失わないことが重要だ」。目的を実現するための手段が、eYACHOをはじめとするICTツールの活用という考え方が重要になる。

【お話を伺った大林組のみなさん】

大林・大本建設共同企業体(特)
千住関屋JV工事事務所
工事長 小山 一朗 氏

大林・大本建設共同企業体(特)
千住関屋JV工事事務所
主任 原 良輔 氏

大林組 土木本部 本部長室
i-Conセンター現場支援第二課
課長 速水 卓哉 氏

大林組 土木本部 本部長室
i-Conセンター現場支援第一課
課長 高橋 寛 氏

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※2020年7月取材。画面キャプチャ、機能、肩書は当時の情報にもとづきます。

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