暗黙知とは、経験や勘によって個人が身につけた、言葉や文書では表現しにくい知識のことです。哲学者マイケル・ポランニーが提唱し、「人は語ることができるより多くのことを知っている」という表現で知られます。
建設現場のベテラン社員を例に取ると、次のような知が暗黙知に該当します。
- ・ 図面を見ただけで判断できる施工上のリスク
- ・ 天候・気温・湿度から作業手順を微調整する勘
- ・ 協力会社との段取りの進め方
- ・ 危険を察知して作業を止めるタイミング
これに対し、形式知は文書・図表・データベースなど誰でもアクセス可能な形にまとめられた知識です。マニュアル、施工要領書、検査記録、業務手順書などが代表例にあたります。
両者の違いを整理すると次のようになります。
| 観点 |
暗黙知 |
形式知 |
| 保管場所 |
個人の頭の中・身体感覚 |
文書・データベース・帳票 |
| 共有方法 |
OJT・対話・現場での同行 |
配布・閲覧・検索 |
| 言語化の難易度 |
高い(本人も意識できないことが多い) |
低い(既に言語化済み) |
| 例 |
図面を見ての施工リスク判断、職人の手の感覚 |
施工要領書、チェックシート、JIS規格 |
両者の最大の違いは「個人の頭の中にあるか、組織で共有可能な形にあるか」という点です。暗黙知を形式知に変換する作業は「形式知化(言語化・可視化)」と呼ばれ、組織の知識資産を増やす上で不可欠なプロセスとなっています。
注意したいのは、すべての暗黙知を形式知にできるわけではない点です。職人の手の感覚や、その場の空気を読む判断などは、完全な言語化が難しい領域として残ります。それでも、可能な部分から段階的にデジタル保存していくことが、組織の知の蓄積につながります。