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AIがリスクアセスメントを支援!
経験の浅い若手でもベテラン並みの安全管理を実現する方法

「ヒヤリハットの感度はベテランと若手で違う」とよく言われます。実際、厚生労働省委託の未熟練労働者向け安全衛生教育マニュアルでも、経験年数の少ない労働者は危険に対する感受性がまだ低く、熟練労働者よりも労働災害に遭う可能性が高いと明記されています(※1)。問題は、リスクアセスメントを若手が自力で「ベテランと同じ精度」で行うのが極めて難しいことです。

本記事では、AIがリスクアセスメントを支援する仕組みを、労働安全衛生総合研究所との共同研究に基づき開発された安全AIの設計思想や、毎日のKY活動にAIを組み込んで事故ゼロを継続している鉄筋工事会社の運用までふみこんで解説します。一般的な「AI便利論」ではなく、実際の建設現場で何が変わるのかという視点で読み進めてください。

AIがリスクアセスメントを支援!経験の浅い若手でもベテラン並みの安全管理を実現する方法

なぜ今、若手のリスクアセスメントが経営課題なのか

リスクアセスメントは、労働安全衛生法第28条の2により事業者の努力義務とされています。安全管理者を選任しなければならない業種、つまり建設業や製造業を含む事業者は、危険性・有害性等の調査と必要な措置を講じることが求められます(※2)。

努力義務とはいえ、実施しなければ「安全配慮義務違反」を問われた際に立証が苦しくなります。さらに、SDS(安全データシート)の交付義務対象となる化学物質(リスクアセスメント対象物)については、2016年6月の法改正で事業場の規模を問わずリスクアセスメントが義務化されました(※3)。対象物質はその後も段階的に拡大されており、運用の質が経営リスクに直結する時代に入っています。

ここで深刻なのが担い手の世代構成です。建設業就業者のうち55歳以上が36.7%を占める一方、29歳以下は11.7%にとどまります(2024年・国土交通白書2025)(※4)。団塊世代の大量退職が見込まれる中、ベテランが現場から去る前にリスクアセスメントの知見をどう若手に引き継ぐかが、業界全体の課題になっています。

経験年数の少ない未熟練労働者は、危険感受性が育っておらず、判断ミスを起こしやすいことが行政の安全衛生教育マニュアルでも指摘されています(※1)。リスクアセスメントを「ベテランの勘」に頼る運用が続く限り、世代交代の局面で安全管理の水準が下がるリスクは避けられません。

若手が「ベテラン並み」になれない3つの構造的な壁

若手の安全管理が伸び悩む背景は、本人の意欲や能力の問題というより、構造的な要因に根ざしています。

第一に、危険感受性の壁です。「これは危ない」と直感的に気づく力は、過去にヒヤリハットや事故を見聞きした経験の蓄積から育ちます。経験の少ない若手は、目の前の作業に潜むリスクを「言われればわかるが、自分からは気づけない」状態に陥りがちです。

第二に、法令・基準の参照負担です。労働安全衛生法、クレーン等安全規則、酸欠則、有機則、特化則など、建設現場に関係する法令や告示・通達は数多くあります。改正も頻繁にあり、若手が自力で最新の規制を踏まえて作業計画を組み立てるのは現実的ではありません。

第三に、ベテランの遠隔化です。複数の現場を兼務するベテランが増え、若手が困ったときに即座に相談できる体制が崩れています。電話やチャットでは伝わらない「現場の絵」を見ながらの助言が、距離の制約で成立しにくくなっているのです。

この3つの壁は、若手研修を増やしただけでは突破できません。現場で作業計画を立てる、その瞬間に支援が届く仕組みが必要です。

AIがリスクアセスメントを支援する仕組み

近年、AIを使って若手の安全管理を支援するソリューションが現場で実用化されつつあります。代表例が、施工管理アプリ「eYACHO」上で稼働する安全AIソリューションです(※本稿のための独自取材および同社プレスリリースより)。

特筆すべきは、その開発体制です。MetaMoJiが大林組、および独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所(以下、安衛研)と共同で開発しています(※5)。安衛研は、厚生労働省が所管する独立行政法人の研究機関で、労働災害の調査・研究を担う組織です。「AIにそれっぽい答えを出させる」のではなく、安衛研の研究者が提唱する労働災害の分析手法を用い、蓄積された安全管理データからリスク評価のAIモデルを構築している点が、他にない設計です(※5)。

仕組みの中心にあるのが、研究から体系化された安全管理の知識を活用した動的なリスク抽出です。過去の災害事例・マニュアル・法令といった情報を参照しながら、AIが作業内容や現場状況に応じたリスクと対策を提案します(※5)。紙の決まり切ったチェックシートに毎日同じ項目を記入するのとは違い、当日の作業ごとにチェックすべきポイントが変わる点が、従来のKY活動と本質的に異なります。

さらに、最新バージョンでは、従来の「公開データ版」と「自社データ版」が統合され、利用シーンに応じて2つのモードを選択できるようになりました(※6)。インタラクティブモードでは、ユーザー自身が災害事例やマニュアル・法令などの参照情報を選んでリスクと対策を生成でき、自動モードでは、AIがそれらを適宜選択して自動で提案します。蓄積された災害事例の記録をAIが活用できるため、社内のナレッジが安全教育資産として循環するようになります。

若手がベテラン並みになる具体的なプロセス

AIによる支援は、若手が「自分で考えなくてよくなる」ことを意味しません。むしろ逆で、判断材料が手元に揃った状態で、自分の頭で考える機会が増えることが現場での変化です。

具体的には次の流れになります。

  • 1. 若手が当日の作業内容をeYACHOに入力する
  • 2. AIが過去の類似作業で発生した災害事例と対策を提示する
  • 3. 提示された事例を、若手自身が「この現場に当てはまるか」「自分ならどう防ぐか」と考える
  • 4. KY活動で職長・班員と議論し、当日の対策を決める
  • 5. 作業後に気づきを記録し、自社データに蓄積する

このプロセスのポイントは、3番目の「自分で考える」段階が必ず入ることです。AIが「答え」を出すのではなく「材料」を提示する設計のため、若手の判断力が削がれません。むしろ、ベテランが何年もかけて頭の中に蓄積してきた事例を、若手が早い段階から参照できる環境が整います。

こうした使い方は、すでに大林組JVの現場でも実践されています。早明浦ダム再生事業の現場では、協力会社のベテラン職長が作成した作業手順書に対し、元請けの若手職員が安全AIの示すリスク予測を参考にリスク確認を行い、適切な指示を出せるようになったと報告されています(※7)。同現場の所長は「中堅が少なく、ベテランから若手への技術の継承が十分ではない」という課題感を語っており、年齢や経験の壁を越えて的確な安全対策を身につける取り組みが進んでいます(※7)。

毎日のKY活動への組み込みで事故ゼロを継続する運用事例

抽象論を離れて、実際の運用に踏み込みます。鉄筋工事を手がける湧田鉄筋では、大林組JV(共同企業体)の現場で安全AIを活用し、安全AI導入後に事故ゼロを継続している事実が公表されています(※8)。

導入前の課題は明確でした。同社では月1回、過去の事故事例やテキストを使った安全教育を実施していたものの、現場に出ると忘れがちで理解が深まりにくいという問題があったといいます(※8)。

導入後の運用設計が秀逸です。毎朝のKY活動の後に、当日の作業とマッチする災害事例を安全AIで選定し、現場監督が重要点を説明する流れに変更しました。さらに、選定した事例についてスタッフに問いかけることをルーティーン化し、回答を導き出すトレーニングを繰り返すことで、安全意識を高めています(※8)。

つまり「月1回の研修」を「毎日のKY活動への組み込み」に転換したわけです。災害事例の選定は計6名のスタッフが交代で担当するため、特定のベテランに依存しません。結果として、安全AIの利用開始以降は事故ゼロが続いており、職員の安全意識向上と知識レベルの底上げが同時に実現しています(※8)。

写真や図解のある災害事例を用いることで、外国人スタッフへの説明がスムーズになり、理解度が向上したとの報告もあります(※8)。これは「AI任せ」の運用ではなく、AIが提示する材料を使ってベテランと若手が毎日対話する場を設計した結果だと読み解けます。安全管理に「考える時間」が組み込まれることが、若手の成長を加速させるのです。

ベテランが遠隔から若手を支える「非移動型」の技術伝承

もう一つ重要な視点が、ベテランの活用方法です。阪神高速道路の構造物維持管理を担う阪神高速技術では、eYACHOと内蔵ビデオ通話機能(GEMBA Talk)を組み合わせて、朝礼・検査・人材育成をリモートで実践しています(※9)。

具体的には、若手がタブレット片手に現場に立ち、必要に応じてベテランをビデオ通話で呼び出します。ベテランは事務所や別の現場から、若手が見ている現場の映像や図面・写真をリアルタイム共有機能(Share)で確認しながら、その場で助言できる仕組みです。

同社の発表によれば、この運用によって「ベテランが複数の現場を効率的にフォローできる環境が整い、自ら考えて動く若手の育成が実現している」とされています(※9)。重要なのは「自ら考えて動く」という表現です。ベテランが現場に張り付かないからこそ、若手がまず自分で考え、判断に迷う部分だけを相談する習慣が育つわけです。

この運用とAIによるリスクアセスメント支援を組み合わせると、若手は次のような環境で成長できます。

  • ・ AIが提示する過去の災害事例で、まず自分で考える
  • ・ 判断に迷ったらビデオ通話でベテランに相談する
  • ・ ベテランは現場に行かずに複数の若手を同時にフォローできる
  • ・ 議論の経過はeYACHOに記録され、後から振り返れる

ベテランの「時間」という最も希少な経営資源を、最も効率良く配分する方法といえます。

安全AIを若手育成に活用する際の3つのポイント

最後に、AIによるリスクアセスメント支援を自社で導入する際に、若手の成長効果を最大化するためのポイントを整理します。

第一に、AIを「正解装置」ではなく「対話のきっかけ」と位置づけることです。AIが提示した災害事例を見て、若手が「自分の現場ならどうするか」を考える時間を必ず確保してください。湧田鉄筋の運用が成功している最大の理由はここにあります。

第二に、自社の労災データやヒヤリハット報告を積極的にAIに学習させることです。公開データだけでも一定の精度は出ますが、自社固有の作業や設備に関するリスクは自社データでしか拾えません。最新の安全AIは公開データ版と自社データ版を統合できる設計になっており、自社のナレッジが資産として循環します(※6)。

第三に、ベテランの役割を「現場常駐」から「遠隔フォロー」へ再定義することです。ベテランの数が減る現実は変えられません。AIで若手の判断材料を補い、ビデオ通話でベテランの助言を届ける体制に切り替えるほうが、現実的かつ効果的です。

この3点を押さえれば、AIによるリスクアセスメント支援は、単なるツール導入ではなく安全文化そのものの底上げにつながります。

まとめ

リスクアセスメントは経験差が大きく出る業務であり、経験の浅い若手をどう支援するかが、これからの建設業の安全管理を左右します。AIがリスクアセスメントを支援する仕組みは、過去の災害事例データと法令知識を若手の手元に届け、ベテランの遠隔フォローと組み合わせることで、若手でもベテラン並みの安全管理を実現する道を開きます。重要なのは、AIに任せきりにせず「考える機会」を組み込む運用設計です。リスクアセスメント、AI、若手支援の3つを連動させることで、属人的だった安全管理は再現性のある仕組みに変わります。

出典一覧

※1 中央労働災害防止協会(厚生労働省委託)「未熟練労働者の安全衛生教育マニュアル」 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/002401891.pdf
※2 中央労働災害防止協会「リスクアセスメント」 https://www.jisha.or.jp/info/field/ra/about01.html
※3 厚生労働省「化学物質を取扱う事業場の皆さまへ リスクアセスメントを実施しましょう(平成28年6月1日施行)」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000099625.pdf
※4 国土交通省「国土交通白書2025 第1節 担い手不足等によるサービスの供給制約」 https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r06/hakusho/r07/html/n1111000.html
※5 株式会社大林組「MetaMoJiが、大林組、安衛研と安全AIソリューションを共同開発、本日より先行試用企業の募集を開始」 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220705_1.html
※6 株式会社MetaMoJi(PR TIMES)「施工管理アプリ『eYACHO』新機能提供開始のお知らせ」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000403.000004007.html
※7 株式会社MetaMoJi(PR TIMES)「MetaMoJiが、大林組による『安全AIソリューション』の利用事例を公開」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000349.000004007.html
※8 株式会社MetaMoJi(PR TIMES)「湧田鉄筋、MetaMoJiの施工管理アプリ『eYACHO』を活用、『安全AIソリューション』で安全管理を効率的に実践」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000404.000004007.html
※9 株式会社MetaMoJi(PR TIMES)「阪神高速技術、MetaMoJiの施工管理支援アプリ『eYACHO』を導入、ビデオ通話機能『GEMBA Talk』を活用し、移動のタイムロスを削減」 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000379.000004007.html
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【監修】eYACHO編集部

施工管理アプリ「eYACHO」は、タブレット1つで現場の記録・共有・管理を可能にし、施工管理から安全管理まで幅広い業務をサポートします。
本コラムでは、建設業界の課題解決やDX推進に役立つ情報や最新動向をお伝えします。

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